世界のユースセンターを巡る旅人

世界を旅する日本人とフランス人の話。

フランスで若者が「社会に参加する」とはどういう意味なのだろうか。

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フランスの若者の失業率は22%ほどで、日本の3.6%*1とは比べものにならないくらい高い割合になっています。日本では「社会に参加すること=社会人=仕事をすること」と捉えられることがありますが、フランスでその構造を成り立たせると、約4人に1人の若者が社会に参加してないということになってしまいます。そんなフランスにおいて、社会に参加するとはどういう意味なのでしょうか。考察していきたいと思います。

 

 

 

日本とフランスにおける「社会参加」の捉え方

わが国では、「社会人」になるという言い回しが仕事に就いて働き出すことを意味するなど、経済的自立の側面から「社会」性を捉えることが少なくないが、「社会参加」における「社会」の意味は、「社会人」における「社会」とは異なる。*2

日本における社会参加の意味は、上記にあるような社会人と混同されて理解されがちなように思います。

ではフランスにおける「社会参加」という言葉について、人々はどのように理解しているのでしょうか?フランス人に「社会に参加するとは何ですか?」と質問してみました。

Aさん:「地域で団体に参加するとか、ボランティアすること。近所づきあいも入ると思う。隣の家の人を手伝うとかもね。」

Bさん:「選挙にいくこと」

Cさん:「人と会ったときに挨拶をするとか、他人を尊敬して良いことをすることかな。他人と関わることかも。」

という結果でした。「仕事」という答えは1つもありませんでした。社会=仕事という考え方は、フランスの人々には根付いていないようです。そのため若者が就職すること=社会の一員として認められるといった感覚は薄いのかも知れません。

この点で日本における「社会」と、フランスにおける「社会」の一般的な捉え方の差があるように感じます。

 

ユース&カルチャーセンターの社長に聞く、若者の社会参加とは

私たちが参加しているユース&カルチャーセンター(以下MJC)の社長にも、若者の社会参加について伺ってみました。

ユース&カルチャーセンターについて↓

MJCは、若者が参加することを特に重要視している施設です。以下は歴史的に若者の参加とMJCについて語ってくれた社長の言葉。

フランスは第二次世界大戦後、レジスタンス集団は若者が文化や政治のことを知らないまま社会人になること、それが問題だと気付いた。そして高齢者が習っても遅いから、若者が習わないといけないという考えがうまれた。

そして若者の会議が開かれた。そこで文化を習うことはとても大事だと決められた。ここで言う文化とは芸術や美術・文学だけじゃなく、民族の文化について。政治文化。これについては政党に参加するなど、自分で参加し経験することが必要だとした。

若者自身で会議をしながらアクティビティやイベントを作ること、その中で担当を振り分けたりしながら皆が協力することが、政治参加の練習になる。そして社会にも参加することにもなる。MJCは若者がそのようなことを出来る場として戦後に開かれた。

MJCはこのように、フランスにおける若者の社会参加を見つめ、歴史をたどってきました。ここでは若者の社会参加は政治文化への参加と、深く関わりをもっていることがわかります。

現在のMJCで見つけられるのは、社会に参加する人になるための学習が多い。何かに参加することで学ぶ。仕事じゃなくて社会に参加すること・自分で社会に参加しようとすることはとても勉強になる。

つまり「仕事=社会に参加する」という考え方は、フランスでは一般的ではないようです。またここでの「社会に参加する人」という言葉が、仕事をしている人という意味で使われていないこともわかります。前の見出しで書いた、人付き合いや選挙に行くことが、ここの社会に参加する人という言葉の意味合いなのかもしれません。

このような若者が社会に参加していくことは、社会人としての歩みなのです

 

若者投票率から見る若者の参加

次に先ほどのMJCの歴史と社会参加でも触れた、政治参加について見ていきたいと思います。

政治参加について1947年から1983年までの間、フランスでは約80%近くの若者が投票をしていました。1940年代後半は、MJCがフランス全土でうまれてきた時期とも重なっています。

1983年から、若者の投票率は落ち続け2014年には26%まで落ち込みます。昨年のEU選挙では、世界的な環境意識の高まりとともにフランスでも若者の投票率が上がり、40%まで上がりましたが、どうやら政治に関心が高まったわけではなさそうです。*3

現在の選挙に行っていない人を対象にした調査*4では、

・23%:選挙は社会を変えることが出来ない

・22%:選挙のとき休みでどこかに行ってるなど忙しいから選挙に行かない

・20%:選挙は自分に影響がない

・20%:候補者のことを知らない

・2%  :絶対に行かないと決めたから

という結果がでています。また選挙に全く行かないわけではなく、「選挙に時々行く」という若者は50%以上と大きな数字になっています。

1983年から2014年まで、若者の投票率が落ち続けた理由には、若者の政治への関心が離れたことが言われています。

1945年と1952年の間にフランスはベビーブーム期に生まれた世代は、特に選挙に興味を持っていた世代でした。

そこから時代を経るごとに、選挙への関心は薄れていきます。投票への義務心も減って行き、「投票は自分が出来ることの1つ」としてだけの意識となりました。政治的に興味がある若者であっても、自分の意見と同じような意見の政党がない・政党に対しての行動をしたいなどの理由で選挙に行かない人が増えたといわれています。

1960年代に生まれた世代から、選挙に行くよりもデモや署名活動が盛んになりました。その世代の子供である今の若者は、政党よりも親のようにデモや署名活動をすることを受け継ぐ、もしくは政治について全く興味が無いと言われています。*5

つまり、若者全てでは無いものの、デモや署名活動を通して政治参加している若者がいるというのは確かなようです。ただ、投票率という形で政治参加が増えてはいません。政治について若者の参加は、投票とは違った形なのが現状のようです。

 

兵役から見る若者の社会参加

すでに試験段階として進められている”兵役”。フランスでは1997年に廃止した兵役が新たな形で復活しようとしているのです。新たな形というのも以前と名称が少し異なり、内容はかなり異なっています。

計画では、2段階に分けられた奉仕活動に男女両方が参加する。

1カ月の期間が義務付けられた第1段階では、市民文化が中心テーマで、政府は「若者たちが新しい人間関係を得、社会的な役割を高めるのを助ける」と説明している。期間中の奉仕活動として、従来と同じ警察や消防、軍での訓練に加えて、ボランティアで教育に携わったり、慈善団体で働くことなどが選択肢として検討されている。

第2段階の期間は最短3カ月から最長1年で、「国防や安全保障に関連した分野」で奉仕活動を行うことが推奨されているが、伝統文化や環境、福祉分野でのボランティア活動も選択肢に入る予定。 

*6

兵役と聞いて一般的にイメージされる軍隊の要素に加え、ボランティア活動も含まれています。しかし、ボランティアというのは自分の「したい」という気持ちでするものであるはず、と考えるフランス人にとって、義務としての兵役はボランティアではないのでは?と、未だに国内でも議論されています。

フランス政府は新たな形での義務的な公共奉仕が、若い国民に国家としての活動への参加を促し、社会的なまとまりを高めるとしている。*7

これら兵役の目的は以上の通り、フランスの若者に国家としての活動の参加を促す所にあります。

すなわち兵役は大人になる一歩手前に、義務的に若者が社会へ参加する機会になっています。ただここに、MJCの社長の言葉にあった「若者が自分で社会に参加しようとすること」という主体性の部分は薄まり、参加への客体化が起きている可能性は否めません。

 

移民大国で参加のあり方とは

移民大国であるフランスでは、様々な文化が入り交じっています。1970年代から移民問題は大きくなっていき、現在まで続いています。

フランス人社会だけを対象にしながら、労働者だけを「社会文化」の主たる問題の当事者と捉える理論的な前提そのものが、すでに成り立たなくなったということである。*8

移民が大量に住んでいるフランスでは、このように労働者=社会に参加する人という構造に限界が来ました。社会から排除されがちな移民をサポートする場・社会に参加できる場が求められ、現在その役割を担っているのがMJCなどのソーシャルセンターです。

フランスで多発したテロなどからは、「フランスの若者をよく教育しないと!」という思想がそこまで強く起こりませんでした。その代わりに、MJCなどのソーシャルセンターで、できるまでテロまで行かないように若者を教育しよう、という取り組みが現在は行われています。

社会から排除されがちな若者が、社会に参加出来る場を提供しているのです。

 

フランスで若者が社会に参加するということ

以上、フランスで若者が「社会に参加する」ということについて、様々な面から見てきました。フランスでは若者の失業率が高いからといって、若者が社会に参加していないというわけではないようです。

フランスにおける「社会に参加する」という言葉は若者に限らず、人と関わることから、ボランティア・政治的活動まで多岐にわたる意味合いで捉えられています。

特に若者においては、自分で参加し経験することに重きが置かれ、MJCのような若者の参加をサポートする施設がフランス全土に誕生しました。そのなかで若者達は、社会参加への1歩を、決められたタイミングで皆が一斉に踏み出すのでは無く、1人1人異なるタイミングで踏み出していきます。

フランスで若者が「社会に参加する」ということは、講義においては、他人と関わる実践による学びを繰り返しながら、社会を作っていくことなのかもしれません。

 

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